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神谷塾的勉強と受験と子どもの教育
札幌で学習塾を営む神谷が、日々生徒と接しながら考えたことをつづります。  おすすめの勉強法や高校・大学受験、教育全般に関する話題を書いていきます。  ★コメントには必ずお返事します★

プロフィール

神谷英樹

Author:神谷英樹
1962年、愛知県知多郡に生まれる。
1981年、愛知県立半田高校を卒業。
1983年、予定外の2年の浪人生活を終えて北海道大学に入学。
1988年、北海道大学理学部地球物理学科を卒業、地質コンサルタント会社に入社。浦和市(当時)にあった研究所に勤務。
1995年、どうしても北海道に戻りたくなってその会社を退職。札幌市内の学習塾で講師の職を得る。
2001年、独立開業。屋号を神谷塾とする。
2021年、神谷塾を家庭教師部に一本化。
家族は妻。息子2人は東京に在住。趣味は物理と化学と野球とギターとベース。



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大人もしているかも知れない理科・社会の勘違い(3) マグニチュード

地震国日本ではマグニチュードといえば地震の規模を表す指標ですが,英語の magnitude は単に「大きさ」を表す普通名詞です。ニュースで「『地震の規模を表す』マグニチュードは…」といつも一言断るのはこのためでしょうか。日本の「マグニチュード」に相当する英単語は,最初にマグニチュードを考案したアメリカの地震学者C. リヒターの名を取って Richter scale といいます。

マグニチュードの算出式は地震研究の進展とともに何通りも提案されてきました。多くは地震計で記録された波形の最大振幅をデータとして用いるもので,リヒターの最初の定義がそうですし,現在気象庁の速報値などに採用されている「気象庁マグニチュード」もそのひとつです。地震の波形の振幅は地震波のエネルギーに関係するので,マグニチュードもまた地震波のエネルギーに関係します。

さて--中学生の皆さんが理科でマグニチュードをについて学ぶときしばしば話題になるのは「マグニチュードが○○大きくなるとエネルギーは△△倍になる」という件です。中学生諸君がいま使っている教科書が私の手許に3社分あるので,それぞれにはどう書いてあるかを並べてみますと,

東京書籍『新しい科学1』
「マグニチュードは,値が1大きいと,エネルギーは約30倍,値が2大きいと1000倍になる」(p.217)
啓林館『未来へひろがるサイエンス1』
「マグニチュードが1ふえると地震のエネルギーは約32倍,2ふえると1000倍になる。」(p.82)
教育出版『自然の探求 中学理科1』
「マグニチュードが,0.2大きくなるとエネルギーは約2倍に,1.0大きくなると約32倍に,2.0大きくなると1000倍になる。」(p.203)

と,おおむね同じような書きぶりです。惜しいなと思うのは,各社とも「1000倍」の前に「ちょうど」と付けてくれればいいのに…ということです。なぜ「ちょうど」1000倍になるかは後述します。

それでも「改善されたものだ…」と感慨深いものがあります。以前は「マグニチュードが1大きくなるとエネルギーは約30倍」とか「約32倍」しか書かれておらず,30倍とか32倍の意味が書かれていないので(後述するように1000の正の平方根です),ここからある誤解が発生していました。生徒が誤解するのは仕方ない。しかし指導者は,生徒が誤解しないように教えるか,誤解していたら正さなくてはならないはずなのに,かつては(今も?)一部の指導者まで誤解していました。

つまり,「…ではマグニチュードが2ふえるとエネルギーは何倍になるか」という設問が定期試験に出ていて,“正解”がなんと1024倍。32倍の32倍だからというわけです。「約」1000倍とか,30×30で900倍というのもあったかな。ひどいですね。定期試験だけでなく,塾の教材でも見たことがあります。高校入試でも「約1000倍」を毎年のように見かけます。

出題する人(教師)が誤解していて,というか理科の教師のくせに不勉強で,生徒もそう習ってしまうものだから,“実害”がなかったケースもあるでしょう。しかし,正しく理解している生徒が1000倍と正しく答えるとバツにされたりしていたのです。あってはならないことですが,ありました。札幌市の数校で見かけただけですが,ということは全国では凄い数になっていたのではないでしょうか。当時の私の生徒には「先生に抗議(講義でもいい)しておいで」と勧めたものですが,自分の間違いを認めない,タチの悪い教師の場合は泣き寝入りもあったことでしょう。可哀想に。

ではマグニチュードとエネルギーの関係を書きましょう。マグニチュードの定義は,よく普及しているものだけでも5種類以上あるということですが,おおむねすべてのマグニチュードMがエネルギーEを用いて次のように書けます:
  M=(2/3)log10E+C  ……①
(たとえば井出哲『絵でわかる地震の科学』講談社,p.29)
log というのは高校数学Ⅱで学ぶ「対数」の記号で,下添字で書いた10を「底」といい,log10Eは「10を何乗するとEになるか」を意味します。log10100=2,log101000=3 というわけです。またCは定数です。

①を変形しますと,次のようになります。
  E=10(3/2)(M-C) ……②
さてMが2ふえてM+2になり,EはE’になったとすると,②より
  E’=10(3/2)(M+2-C)=10{(3/2)(M-C)+3}
   =10(3/2)(M-C)×103=E×1000
となるのです。Eのちょうど1000倍になりました。

そして,Mが1ふえると 103/2倍=√1000倍=31.62…倍=約32倍 となります。同様に,Mが0.1ふえると 100.15倍=約1.4倍 ,Mが0.2ふえると 100.3倍=約2.0倍 です。

約32倍の件は,教える現場で「約32って√1000のことなんだよ。√っていうのはね…」と数分くらいで話してあげれば済む話ですし,話すべきだと思うし,中1でも普通に数学がわかる子なら話せばわかります。

それを,「約32倍」の意味をわかろうともしないで,あるいは「教科書に書いてないことを教えてはイカン」などというおかしな信念?でちゃんと教えない,という理科教師がかつては多かったと思います(そんなのは教師ではありませんね)。教科書の記述が改善されたのは,この辺りの状況を踏まえてのことかも知れません。



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